【シングルマザーのための情報】養育費について知っておこう(基礎編)第3回 養育費を自分で請求してみよう

以下の話は以下の投稿の続きです。

 養育費について知っておこう(基礎編・全3回)
   第1回 データから見る養育費の状況〜6割が貰っていない

   第2回 養育費ってどういうものなの?

 

離婚の際,誰に相談をしているかデータから見てみる

 

 それではまず厚生労働省の平成23年度全国母子世帯等調査結果報告から誰に相談してるか見てみましょう。

 母子世帯の母が,離婚の際またはその後,養育費について相談をしたことがある人の割合は54.4%となっており,前回の平成18年度の調査の数値と同じとなっています。だいたい離婚した母の半分ぐらいが一人で考えず,誰かに相談していることが分かります。

 

 そして,その相談相手は

   ①親族             43.9%(前回調査45.9%)

   ②家庭裁判所          24.4%(同   25.5%)

   ③弁護士            12.4%(同   14.1%)

   ④知人・隣人           8.8%(同    7.1%)

   ⑤県・市町村窓口,母子自立支援員 5.9%(同    3.6%)

 の順になっています。

 

 大部分の方が親族と相談していることが分かりますし,家庭裁判所に相談している方の割合が比較的多いことも分かります。弁護士などの専門家や母子寡婦福祉団体やNPO法人などの専門機関への相談の割合は比較的低いことも伺われます。

 

では誰に相談をすればいいのか?

 

 親族の方が養育費に関する情報に精通していればいいのですが,そうでない場合,不利な条件で合意してしまう危険性も否定できません。やはり,養育費の請求に関しては専門機関や専門家に相談をしたほうがいいに越したことはありません。

 

 では,弁護士に相談するのがいいのでしょうか?そんなことはありません。離婚原因・慰謝料・財産分与も一緒に解決する必要があるような複雑な事案であれば,専門家に相談する必要もありますが,養育費のみの話であれば,お互いの収入から客観的に判断が可能であるので,敢えて費用を掛けてまで弁護士に相談する必要はありません。

 

 そこで,前回の投稿で記載したような最低限の情報を知った上で,相手方配偶者(夫・元夫)と協議離婚の際に併せて養育費について合意したほうがいいでしょう。ただ,この場合は単に当事者間で書面を作成するのではなく,公証役場というところで公正証書というものを作成しておくと支払いが止まったときに強制執行ができることになります(公証役場   などに聞いてみてください)

 また,合意をする前に基本的な事項を確認したいというのであれば,札幌弁護士会の無料法律相談で相談をしてみるのもいいでしょう。その場で弁護士に相談をし「相場」を知って相手方配偶者と話し合うのであれば弁護士費用は不要なのでオススメです。


 ただ,養育費について相手方配偶者と上手く合意できない場合,話し合いができない場合,面と向かって話し合いをしたくない場合もあると思います。その場合は,養育費に関する「調停」を行う必要があります。


 その場合も直ちに弁護士に相談をするのではなく,家庭裁判所の相談窓口に行って相談をして,その場で養育費調停の申立をすれば,不要な弁護士費用は支払う必要はなくなります。積極的にご自分で家庭裁判所に行って養育費の請求をしてみましょう。

 

どうやって請求すればいいのか?―ひとりで請求してみる 

 ここでは養育費を調停で請求する場合を見てみましょう。

 

申立書に記入する

 まず,子の監護に関する処分 養育費請求調停申立書 に必要事項を記載しましよう。

 

 自分と子どもと相手方の氏名・住所・生年月日を記載します。

 既に養育貧に関して合意をしている場合や支払を受けている場合はその旨を記載し,何も取り決め・支払がない場合はその旨を記載して下さい。

 同居を始めた日や別居・離婚をした日もだいたいでいいので記載しましょう。

 

 ここで頭を悩ませる点が2点あると思います。

 ひとつは,いくら請求すればいいのかという点。この点は算定表から判断しても,必要金額を記載しても,問題はありません。分からない場合は「相当額」ということにしておいて裁判所に判断してもらうこともできます。

 次に,調停と審判って何と思われるかもしれませんが,調停は調停委員という人を介して相手方配偶者と話し合いをして合意する方法,審判というのは調停が成立しなかった(調停で合意できなかった)ときに裁判官が判断する方法と大まかに知っておけば大丈夫です。

 話し合いにならないはずだからと言って審判を申し立てても,実際はまず調停で話し合いなさいと調停から始めることになります。費用を考えるとまずは調停の申立をしておいたほうがいいでしょう。

 

必要書類を持参する

 ①戸籍謄本

 子ども(未成年者)の全部事項証明書が必要になりますが,離婚していないのであれば家族の戸籍謄本,離婚済みであれば,親権者が母親になっている場合は自身の戸籍謄本にお子さんの戸籍があると思うので,全部記載のあるものを取得して提出しましょう。 

 

 ②あなたの収入に関する資料

 具体的にはあなたが給料をもらっている場合は,前年度の源泉徴収票,最低3ヶ月分の給与明細,確定申告をしている場合は確定申告書,収入がない場合は区役所で非課税証明書を取得して提出しましょう。

 あくまで監護親(あなた)と非監護親(夫・元夫)の収入を基準とするので必ず提出を求められます。 

 

申立に掛かる費用は?

  ①収入印紙  1200円

  ②郵便切手   784円(郵便切手の内訳はこちら

 

  だけです。

 

 この費用だけで何回調停期日が設けられても追加の費用を徴収されることはありません。

 ただ,調停が成立したのちに,調停調書というのが作成されるのですが,この費用が数百円支払う必要がある場合があります。

 

申立をする!

 以上の書類と印紙・郵便切手を持って,それらを家庭裁判所の申立窓口に提出します。 

 調停申立書はその場で用紙を貰って,その場で記載することもできるので,印鑑を忘れずに持って行きましょう。認印で大丈夫です。

 収入印紙や郵便切手は札幌家庭裁判所本庁では,地下1階のセイコーマートで売っているので買えますが,その他の支部では近くに売ってないので予め買っておいたほうがいいでしょう。

 

 申立が受理されると,後日(だいたい1週間以内),調停の日程の連絡が裁判所からあります。調停は平日の午前9時30分から午後5時までに行われるので,仕事をしている方は休みを申請する必要があります。候補日は何日か用意されているので,その中から適切な日に決めてもらいましょう。

 通常は,①午前9時30分〜12時までの部か,②午後1時30分〜3時ごろまでの部を指定されることが多いです。どうしても都合が悪い時は相談してみましょう。

 

 日程が決まると,裁判所から相手方配偶者に調停申立書と日程が記載された通知書が送付されます。ここで初めて調停を申し立てたことが分かる場合もあるので,相手方配偶者から連絡があるかもしれませんので,対策を立てておきましょう。

 

調停はどのように行われるか?

①調停の日の当日,裁判所に着いたら受付に調停のために来たことを知らせましょう。

 札幌家庭裁判所本庁では5階のエレベーターを出て右側のところが受付になっています。氏名と時間を伝えれば大丈夫です。

 

② そして,始まるまで待つ。

 申立人待合室というところで,呼ばれるまで待っていましょう。調停委員の方が呼びに来てくれます。

 相手方配偶者はその部屋に来ることはありません。相手方待合室という別の部屋で待機することになります。

 ただ,DVなど相手方と顔を合わせたくない場合は必ず事前に(申立をしたときか調停期日を調整するとき)に裁判所にその旨を伝えておきましょう。そうすると,待合室ではなく,他の待機場所を用意してくれます。

 通常,同じ階の別の部屋で待つことになるので,心配がある方は必ず事前に伝えて下さい。

 

③呼ばれたら,調停室まで行く

 従来は,最初に申立人が呼ばれ,調停委員と話し合いをして,終わった後に交代して相手方が呼ばれるという方法が採られてきました。ただ,最近は調停手続きの説明を申立人と相手方が一緒に聞いてもらうという方法が採られることが多く,最初に双方が同席させられる場合も多く見られます。

 弁護士が就いた場合はそのような方法を拒否することも多いのですが,もし相手方と顔を合わせたくないという場合はその旨を伝えて,別々に説明を受けるようにしたほうがいいと思います。

 

 その後は,申立人と相手方が同席しながら協議をするというのではなく,交互に調停室に入り,別々に調停委員が話を聞いてくれます。一緒に協議をしたら,相手方に対して言いたいことも言えなくなる危険性があるのでこの点は安心して大丈夫です。

 

 調停委員は男性1名,女性1名の2名から構成されます。調停委員は話を聞くプロなので安心して話をして大丈夫です。ただ,時々,変なことを言う人もいますが,それがすべての意見ではないと思い,自分を責めたりがっかりしないで下さい。私はあまりに変なことを言われた場合は抗議したり,注意したりすることもあります。

 ただ,9割近くの調停委員は人間的にも素晴らしい人なので,問題は生じないと思います。

 

 だいたい,申立人30分程度,相手方30分程度,調停委員と協議をして,その後は必要に応じて順次交代しながら調停が進行していきます。1回の調停期日は2時間程度かかると考えておいたほうがいいと思います(それより長くなることも短くなることもあります)

 

④合意ができるかどうか

 双方,養育費の金額が納得できれば,合意することになります。ただ,双方で金額の開きがあることもあり,簡単に合意できない場合も多々あります。納得できない時は納得できないとはっきりと調停委員に伝えておかないと,不本意な合意をすることにもなり兼ねません。自分の意思はきちっと伝えましょう。

 

 ただ,裁判所の調停というと皆さん緊張されます。自分がちゃんと意見を言えるか心配になるかたがほとんどです。しかし,私のこれまでの経験から言うと,緊張で物が言えなくなる方はいませんでした。むしろ,私がびっくりするぐらいちゃんと自分の意見を皆さん言うことができています。だから,緊張しないか心配する必要はないと思います。その場になるとなんとかなるものです。

 

 双方が金額に納得ができれば合意が成立,つまり調停成立となります。調停が成立すると調停調書という書面が作成されるので,合意の内容が客観的に明らかになり安心です。

 

 もし,最初の調停期日に合意が成立しない場合は,数回の調停期日が設けられることになり,協議が継続します。このように1回の期日ですべてを決める必要はないので,納得できるまで話し合いをしてみたほうがいいでしょう。

 

⑤注意すべき事項

 相手が会社以外の副収入があるけどもその金額がはっきりしない場合、自分で自営業をしている場合、相手が会社のオーナーで会社から給料もらうようにしている場合など,収入の正確な金額を算定することが難しいことがあります。この場合は専門家に依頼する必要があるかもしれません。しかし,こういう時でも裁判所の調停委員が適切に金額を算定してくれる場合も多いので安心です。

 

合意しても支払わない場合

 せっかく調停で養育費の支払の合意ができても,時間と共に支払を止めてしまう人が多いのが現状です。給与が少なくなったりして支払えなくなる場合もありますが,支払う能力があるのに支払を止めてします人もいます。この場合,どうしたら良いのでしょうか。

 相手方が給与を貰っている場合は給与の一部を差し押さえることができますし,預貯金や他の財産がある場合をそれを差し押さえることができます。差し押さえると未払分の金額について相手方が勤めている会社や金融機関から支払を受けることができます。

 ただ,差押えという方法はやや面倒くさいので,支払が止まったらすぐに裁判所に連絡をして「履行勧告」という手続を取ってみることができます。これは裁判所の調査官という担当者が事情を調査した上,相手方に電話や書面で支払うよう請求をしてくれます。但し,これはあくまで任意に相手方に支払わせるよう連絡を取るだけの手続なので,差押えのように金額を直ぐに取得できるのではありません。裁判所からの連絡,という心理的な圧力を掛ける手続もできると理解しておくといいでしょう。

 

新しく設けられるかもしれない制度

 差押えなどの強制執行は,相手方の勤務先が分かっていたり,預金口座が分かっている場合にしか実施できません。養育費は長い場合で十数年支払いがなされるので,その間,相手方の勤務先が変わることもありますし,婚姻時に使っていたとは別の預金口座が作られてしまうと,その口座を調べることは容易ではありません。

 そこで,法務省は現在,裁判所が金融機関に口座情報を照会して回答を求め,預金口座を特定する方法を導入しようと検討をしているようです。詳細は以下に引用する平成28年6月4日付の読売新聞の記事をご覧ください。

裁判などで確定した養育費や賠償金の不払いが横行していることから、法務省は、支払い義務を負った債務者の預貯金口座を裁判所を通じて特定できる新たな制度を導入する方針を固めた。強制執行を容易にするため、裁判所が金融機関に口座情報を照会して回答させる仕組みで、早ければ今秋にも法制審議会(法相の諮問機関)に民事執行法の改正を諮問する。不払いに苦しんできた離婚女性や犯罪被害者など多くの債権者の救済につながる可能性がある。

裁判所の判決や調停で支払義務が確定したのに債務者が支払に応じない場合、民事執行法は、裁判所が強制執行で債務者の財産を差し押さえられると定めている。だが、現行制度では債権者側が自力で債務者の財産の所在を特定しなければならず、預貯金の場合は金融機関の支店名まで突き止める必要がある。

その結果、不払いが多発しているのが離婚に伴う養育費だ。最高裁によると、全国の家裁で養育費を求める審判や調停は2009年以降、2万件台で推移しているが、厚生労働省による11年度の調査では、離婚した母子家庭で養育費を「受け取っている」と回答したのは2割程度にとどまる。同省の委託を受ける養育費相談支援センター(東京)には年間約1000件の不払い相談がある。一方、日本弁護士連合会の08年の調査では、損害賠償訴訟などで勝訴しても債権を回収できなかった経験を持つ弁護士が8割近くに達した。

新制度では債権者が金融機関名を指定すれば、裁判所が本店に対して債務者の口座の有無を照会し、支店などに債務者の口座があった場合に残高や支店名などを回答するよう義務付ける。法務省の呼びかけで発足した有識者の研究会は、今月にもまとまる報告書で、この新制度を求める意見を盛り込む。フランスやドイツ、韓国などは同様の制度を既に導入している。

ただ、債務者が他人名義の口座を使ったり、財産を隠して会社を倒産させ、支払い義務を免れたりするケースも想定され、新制度ですべての不払いを解決できるわけではない。金融機関名が全く分からない場合などの対応策も今後の制度設計で議論になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

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